柑橘類(中晩柑)を育てるにはどうすればいいのでしょうか?著者の豊富な栽培失敗例をもとにした、柑橘類(中晩柑)の木の育て方。ここでは近年開発された新しい栽培方法も交えて解説しています。
柑橘類(中晩柑)の育て方
オレンジなどの柑橘類(中晩柑)の育て方。自宅で柑橘類を育てて収穫する方法について。初心者の方は栽培容易なスイートスプリングから育てることをおすすめします。柑橘類は収穫量が増えるまでに5年以上かかりますので、できる限り多くの苗木を植えて栽培をはじめられることをおすすめします。柑橘類は亜熱帯の気候の植物で寒さが苦手です。自宅の庭や畑で柑橘類を育ててみましょう。
目次
- 栽培に適した地域
- 柑橘類の品種の選び方・種類
- 気温について
- 柑橘類の品種ごとの耐寒性
- 鉢植え栽培(プランター栽培)
- 土について
- 土壌改良剤と根量の関係(上級)
- バーク堆肥の使用量(考察)
- 根を養うことの重要性(上級)
- 植え付けと植え替え
- 肥料
- 木を大きくする方法
- 日当たり
- 温度管理
- 防寒対策
- 水やり
- 剪定方法
- 受粉作業
- 摘蕾摘花の時期と目安
- 摘果の時期と目安
- 粗摘果と仕上げ摘果、樹上選果
- 摘果と糖度の関係
- 八朔(ハッサク)の摘果
- 不知火(デコポン)の摘果
- 有葉花と直花(中級)
- 有葉花と直花の摘果(中級)
- 花梗枝(上級)
- 剪定と摘葉(上級)
- 病害虫
- 接木の方法と種まきでの増やし方
- 収穫方法と袋掛け
- 保存方法について
- 熟期の一覧表について
- レシピいろいろ
- おすすめの本のご案内
- おすすめの品種
- 栽培記録
- 参考・引用文献
- あとがき
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栽培に適した地域について
柑橘類は気候区分で中間地(新潟・茨城以西の標高が低めの地域)と温暖地(太平洋岸)と亜熱帯(沖縄)で栽培可能な果樹です。寒冷地より平均気温が低い地域での栽培には施設での加温栽培が必要です。九州地方や四国瀬戸内海と関東にかけての太平洋沿岸地域で柑橘類を栽培されている地域では食べたい品種を選ぶだけであまり低温の心配をする必要はありません。
上記以外の地域では、栽培可能な気候かどうかを苗木を買う前に調べます。品種選びを誤ってしまいますと、うまく育てられずに最終的には嫌になって栽培を投げ出し苗木を処分してしまうことになりかねません。温暖地以外の方は、鉢栽培が困難になったときに地面に植え替えられるような耐寒性のある品種がおすすめです。近年は温暖化により、これまで柑橘類の栽培が難しかった地域でも、さまざまな柑橘類の栽培が可能になってきました。

ミカン以外の柑橘類(中晩柑)の品種の選び方・種類について
柑橘類の品種について簡単にご紹介したいと思います。
ブラッドオレンジは寒さに弱そうではありますが、中間地でもハウスなら越冬可能なので栽培に挑戦してみる価値はありそうです。中晩柑の中ではスイートスプリングと種なしキンカンのプチマルがもっとも栽培が容易です。バレンシアオレンジは柑橘類の栽培が盛んな地域で露地栽培可能ですが、回青という現象が発生しますので袋掛けが必須です。中間地でもバレンシアオレンジ栽培できる可能性は温暖化によりゼロではありません。年度を超えて収穫する超晩柑の品種選びで注意したいところは、冬季にマシン油などの殺虫剤が散布できないデメリットがありますので有機栽培では袋掛けなどで果実を保護して対処します。
糖度が高く大人気のせとかはハウスでの栽培に適しており内陸部の盆地や福井など日本海側の栽培はまだ報告例が少ないですがおそらく栽培すること自体は可能でしょう。黄金柑や仏手柑そしてジャバラ(邪払)は名前が素晴らしく縁起物で正月飾りにも使えますけども可食部少なく食用には物足りません。
オレンジ類はネーブルオレンジとデコポンあたりが美味しくておすすめです。清見オレンジは外皮とじょうのうが密になっており皮剥きにくく種子多く味はデコポンと同等ですが手が汚れるので食べにくいです。紅マドンナと甘平はたいへんおいしい種類でも該当県内の農家以外は栽培が禁止されております。
※ジューシーオレンジと河内晩柑は同一品種です。
甘くない系統の晩柑類は果皮の厚く酸味柔らかな文旦、酢の代用とされるも酸味穏やかなサマーフレッシュ、昔ながらの定番のあまなつ、八百屋で少々人気がないサンフルーツ割と好みが分かれるもさっぱりしており手が汚れにくい八朔です。甘くないといっても糖度は7度~11度程度は入ってます。これらの柑橘は酸度が高いため甘くないと感じます。
詳しい品種紹介は備忘録「ミカンと柑橘類の種類・品種の特徴一覧」ページで紹介していますのでご覧ください。
育て方のコツ その1 気温について
柑橘類の育て方のポイントを実体験をもとにいくつか紹介したいと思います。
温暖地(年間平均気温16℃~)でのアドバイス
たいていの品種を育てることが可能です。ただし寒波に注意を要し幼苗は保護する必要があります。
中間地(年間平均気温12~15℃)でのアドバイス
柑橘類は中間地と言われる地域では、はじめの4年間は冬季の防寒対策が必要です。頻繁に-5度以下になる地域では毎年の防寒対策が必要です。-7度になると温州ミカンであっても落葉し翌年が裏年になるので大寒波が来る前に防寒対策が必要です。収穫時期が遅い中晩柑は甘くておいしい品種もあるので関東以西の方におすすめです。スイートスプリングの耐寒性は温州みかんと同等の管理で栽培できるのでこの品種だけは中間地でも防寒なしで栽培できておすすめです。いわゆる中間地と呼ばれる地域での日向夏や文旦やバレンシアオレンジ、晩白柚の栽培は不可能ではないにしろ、毎年の寒さ対策が必要で栽培に苦労します。どんな種類でも栽培から最初の4年間は耐寒性のある品種でも苗木に防寒対策をしたほうが安全です。
その他の地域に向けたアドバイス
沖縄県など亜熱帯の地域ではどの品種も育てること自体は可能ですが、冬季に低温を要する品種は着色や成熟に問題が生じる可能性があります。亜熱帯の地域ではシークワーサー、ブンタン、オレンジ、レモン、ライム、タヒチライムのような四季なり品種が栽培に適しています。長野県や茨木以東の地域では柑橘類の栽培は加温施設が無いと困難です。

柑橘類の品種と耐寒性
柑橘類は品種ごとや生育環境により耐寒性が異なります。一般論ではなく実証済みのデータ(リアルな経験)に基づくカンキツの耐寒性についていくつか紹介したいと思います。
相対的な実験指標(※12)に基づくと、日本に存在する柑橘類で耐寒性劣るシークワーサーを比較の中心値として仮定すると、他の柑橘類の耐寒性についてのおおよその評価は次のようになると思われます。尚、耐寒性の分類は筆者が行いました。
寒害の程度ランキング
- 枝枯れの程度が甚大・落葉甚大・・・オロブランコ、晩白柚、リスボンレモン、ライム、ブッシュカン(解説: 耐寒性が無い)
- 枝枯れの程度が深刻・落葉の程度も深刻・・・はるみ、西南のひかり、ルビーレッド、不知火、大三島ネーブル、タロッコ、モロ、晩白柚、津之望、ビラフランカ、宮内いよかん、べにばえ(解説: 耐寒性が無い)
- 枝枯れの程度が大きく落葉多い~甚大・・・みはや、吉田ポンカン、太田ポンカン、あすみ、はるひ、麗紅(解説: 耐寒性劣る)
- 枝枯れの程度がやや少なく落葉甚大・・・璃の香、マイヤーレモン(解説: やや耐寒性あるが北風に弱いので防風を要する)
- 枝枯れの程度が中程度で落葉も中程度・・・南津海(解説: 中間地でも栽培可能)
- 枝枯れの程度が中程度で落葉やや軽い・・・宮川早生(解説: 中間地でも栽培可能)
- 枝枯れの程度がやや軽く落葉やや軽い~中程度・・・させぼ温州、川田温州、川野夏橙、スイートスプリング、はれひめ(解説: 中間地でも栽培可能)
- 枝枯れ・落葉共に軽い・・・シークワーサー、日南1号(解説: 中間地でも栽培可能だが亜熱帯の品種は結実が難しい)
寒害の春枝への影響度
- 翌年の春枝に深刻な影響が現れる・・・ビアフランカ、野間紅八朔、土佐文旦、ハッサク、山見坂ネーブル、ライム、不知火、太田ポンカン、西南のひかり、はれひめ、甘香、紅甘夏、津之輝、みはや、はるか、はるみ、麗紅、せとか、河内晩柑、紅まどか、天草、クレメンティン(解説: 耐寒性劣る~甚だ劣る)
- 翌年の春枝に影響が現れる・・・川野夏橙、吉田ポンカン、オロブランコ、晩白柚、ヘベス、田口早生、シークワーサー、べにばえ、早香(解説: 耐寒性劣る~甚だ劣る)
- 翌年の春枝への影響がやや現れる・・・白柳ネーブル、ダイダイ、小みかん、アンセイカン、興津早生(解説: カンキツの産地に適するも北風を防げば中間地でも栽培可能)
- 影響度指数が低い・・・柚子、スダチ、カボス、多田錦(解説:中間地でも栽培可能)
耐凍性では、柚子を甚だ強とした場合、温州ミカンと清見と宮川早生は強、川野夏橙は中、ポンカンと宮内伊予柑は弱、リスボンレモンとブッシュカンは甚だ弱となります(1980, 池田)。
尚、データは1度限りのものなので生育環境等の変数は考慮していません。カンキツの耐寒性は木の健康状態によっても左右されます。樹勢が良く健康な状態であればやや寒さに耐え得る強さを持っています。しかし鉢植えや害虫などで葉数少なく栄養状態の悪いものは耐寒性劣ると思われます。暖冬やマシン油の散布も耐凍性を低下させます。冬季の北風や寒波、凍害を防ぐことがカンキツ栽培では重要です。
これらの実験と観察等をふまえると、中間地でも栽培可能な柑橘類は柚子、スダチ、カボス、多田錦、花柚子が最も適応し、次いで温州ミカンと南津海、川野夏橙、その次に森田ネーブルおよび白柳ネーブルや小みかん、スイートスプリングなどが考えられます。
柑橘類(中晩柑)の鉢植え栽培(プランター栽培)について
中晩柑類の鉢植えやコンテナでの栽培では満足できるような収穫はできないと思ったほうがよいでしょう。害虫や寒さをいかに防いで健康な葉を確保するかが栽培の成否を左右します。果実の育成に必要な健全な葉を残すことは栽培環境によっては難易度が高くイセリアカイガラムシなどの柑橘類を吸汁する害虫が少しでもいる庭では殺虫剤という農薬が必要です。
鉢栽培をする場合は風通しと日当たりのよい場所がおすすめです。鉢植えでも冬季はそれほど水分や日光を必要としません。特に晩白柚のような大きな果実の品種は鉢植え栽培では葉も大きく数が少ないので1枚でも落ちれば好く翌春の結実への影響が大きいので難易度が高いです。カイガラムシがいない場所であるならアゲハチョウの幼虫による食害を防ぐ程度で中晩柑の鉢植え栽培は容易です。

栽培を楽しむコツ
柑橘類は木をある程度まで大きくするまでに5年以上かかります。それまでの間は、ほとんど収穫ができませんので、密植栽培にして後で木を伐採すると初期の収穫量を稼げます。後で植えておけばよかったと後悔するよりも、気になった品種は積極的に植えていったほうが時間を年単位で損しません(私は4年くらい無駄にしました)。
不知火(デコポン)やトゲなしせとかのようにおいしい品種は2株ずつほどあったほうが楽しいです。お子様がお生まれになった記念として、お孫様が大きくなられた時のためにと、柑橘類は育てたいと思ったときに適当な理由を付けて栽培を始めたほうが後悔が少ないです。柑橘類の露地栽培は10年くらい経過すると1株あたり10kg以上収穫できるようになります。
用土について
柑橘類は温暖な環境と、有機質に富んだ、排水のよい弱酸性(PH5-5.5)の土壌が栽培に適しています。赤玉土に鹿沼土を少しブレンドし、バーク堆肥を10%(腐葉土は5%~7%)ほど混ぜます。植え付け時に根に触れないように肥料、苦土石灰(マグネシウム)を少量入れます。風で倒れないように支柱をしっかり立てます(すぐに斜めに倒れます)。赤玉土オンリーよりも鹿沼土ベースのほうがよいと思います。市販のブレンド土を使う場合は堆肥や腐葉土などは不要です。
露地栽培では植え付け前にバーク堆肥などの土壌改良剤を投入すると、その後の根量や収穫量が増えます(※7)。パーライトやピートモスを混ぜ込んでも良いです。
植え付け時から3年くらいは剪定不要です。

土壌改良剤と根量との関係
柑橘類の根量と土壌改良剤について興味深い論文を見つけましたので紹介します。「中晩生カンキツ‘不知火’の樹体生育と果実品質ならびに細根量に及ぼす土壌改良 資材と窒素施肥量の影響(※7)」という2005年の研究では土壌改良剤に堆肥またはピートモス、ゼオライトを使用した区では何も使用しなかった区よりも有意に根量が多く収穫量も多くなったという結果が出ています。特にバーク堆肥の効果が顕著でした。その差は何と約2倍!特にバーク堆肥使用時の根の呼吸量は何もしていない区よりも20%多いという結果になりましたが統計的に優位な差は見られませんでした。一度バーク堆肥を投入するとその効果は少なくとも4年は続くと書かれています。そして窒素肥料が多すぎたり土壌のPHが4を下回ると根が減少したということです。
バーク堆肥の使用量について
バーク堆肥の使用量について少し考えてみました。「バーク堆肥の使用量は何リットルが正解かについての考察(2018, 筆者)」によると、柑橘の初回植え付け時に使用できるバーク堆肥の使用量を計算してみました。詳しくはリンク先のミニ論文をご覧ください。
おおよその目安ですが、植え付け植え替え時に1平方メートルあたり約21L(5.26kg)のバーク堆肥を投入し翌年約11L(2.75kg)を追加すると収量と根量ともに増えるという結果が示されています。要点だけ言うと、2年おきに1平方メートルあたり16L(4kg、4t/10a)を施す方法と、毎年1平方メートルあたり約8L(2kg、2t/10a)のバーク堆肥を投入する方法が安全量の最大値であると言えます。植木鉢であれば赤玉土または鹿沼土20リットルに対し500g/約2L/年(2年ごとの植え替えなら1kg/約4L)の割合で土づくりをするという計算になります。
腐葉土の場合、バーク堆肥よりC/N比が高いので、バーク堆肥よりも3分の1~2分の1ほど量を減らして使えばよいと思います。
ピートモス、パーライトもまた土壌改良剤として使えます。
堆肥は土壌の硬さを下げ気相を30%程度に近づけるためだけの物と思ったほうがいいかもしれません。また、一度堆肥を投入すると、定期的に足し続けないとその効果は薄れると思われますので無理して地面を掘り起こさないといけない深さに堆肥を投入することは現実的とは言えません。土が硬い(硬度20以上)と根がほとんど生じないという研究もあり、その内容によれば無施用無肥料が最も細根量が(特に表面10cm内に)多かったそうです(※11)。
これらのことをふまえると、露地栽培での堆肥の量は0.5t/10a/年くらい、無難に2t/10a/年程度、多くても4t/10a/年までかと思います。
土づくりは計画的に行いましょう!
根を養うことの重要性
柑橘類の栽培で土壌改良を行い根量を増やすことの重要性についてお話したいと思います。「温州ミカンの着果負担に関する研究 第5報(※8)」という研究によれば、着果樹の機能炭水化物貯蔵養分の割合は次の通りです。葉9%、枝10%、主幹6%、根18%、果実58%。不着果樹では葉11%、枝22%、主幹11%、根47%、果実9%(摘果前)。翌年の開花に必要な花芽形成は貯蔵養分の多小によって決まります。この研究からは炭水化物が根を中心に貯蔵されていることがわかります。すなわち土壌改良により根を養い根量を増やすことは、相対的に根の炭水化物を増やし、貯蔵庫の容量を増やすことと同じです。隔年結果を抑えて毎年結実させるには栄養の貯蔵庫である根量そのものを増やさないといけません。ここに言及した栽培書は皆無だと思いますが、私は根を大事にしよう!と言いたいです。
植え付けと植え替え
柑橘類の植え付け時期や植え替え時期について、一説には3月が良いという説がありますが、それは温暖地や1年苗に限ると思います。筆者が栽培している中間地の場合、3月4月に植え付けや植え替えをしてしまうと5月はじめの新芽が出る時期に低温で葉が弱って黄色くなったり落葉することに気が付きました。これまで幾度も植え替えに失敗して柑橘類を枯らせたり瀕死にしてしまった経験から、苗木の活動が低下している時期の植え付けや植え替えは良くないと断言できます。なぜなら柑橘類は気温が低い時期でも活動しており根からの栄養補給や水分供給に依存しています。低温時に植え付けや植え替えを行うと根が土壌に活着しづらいため葉への水分供給が絶たれて落葉の原因となってしまうことがわかりました(2018, 筆者)。柑橘類の植え付けや植え替えをする場合はの必ず根の周りの土ごと移植すること、植え付け後は水分を切らさないようにすることをおすすめします。
ならばいつ頃の植え付けや植え替えがよいかというと、7月以降では遅すぎると思います。中間地において霜が降りる4月はまだ早すぎると思います。根の成長時期などを考えると5月はじめのゴールデンウィークが植え付けや植え替えに適しているのではないかと考えます。5月から遅くとも6月、あるいは涼しくなってから~肌寒くなるまでが植え替えのタイミングとしては良いと思います。温暖な地域であれば11月下旬でも植え付け・植え替え可能です。個人的には秋のほうが水分要求量が少なく枯死のリスクが減るので良いと思います(※秋植えの場合、防寒を要します)。山陰・近畿北部~北陸などは春植えに限ると思います。柑橘類は常緑でいつでも植え替えできそうな気になりますが、意外と植え替えのタイミングが限られています。
深い積雪がある地域の場合、秋以降の植え付けはよくありません。
新規に苗木を植え付ける場合は植え付け前に土壌改良をしておきます。土中に有機質が少ない場合、根量が少なくなります。なるべく植え付け前に完熟の堆肥や腐葉土や土を軟らかくして通気性をよくする改良剤などを土の中に漉き込んでおきましょう。根量を確保するためにはマルチングや土中への農薬散布も有効です。主枝となる枝には支柱を添えて誘引しておきます。
苗木の植え付けは霜の心配がなくなってから行いましょう!
肥料について
柑橘類は有機質の堆肥等で土壌を改善し、カリウム、リン酸(鶏糞、ようりんなど)で実つきや骨格をよくします。窒素肥料は葉を茂らせます。苦土石灰の中に含まれるマグネシウムが病気を予防しますので、私はアルカリ性の強い石灰よりも苦土石灰(できれば粒状)や牡蠣殻をおすすめします。肥料は5月上旬の葉面散布が効果的です。6月の追肥(実肥)は多めに与えます。このとき窒素肥料が多くならないように気を付けます。窒素肥料が多くなると果実が小さくなります(※6)着果量が多い場合は秋口の8月末~9月上旬の間に肥料を与えます。10月中下旬か11月上旬には窒素を意識した肥料を与えて冬季の花芽分化に備えます。柑橘類は落葉果樹のように休眠といって極端に活動が低下することはありません。むしろ11月以降にデンプンが木に貯蔵されている必要があります。年度末の3月下旬から4月上中旬までに花肥を与えます。鶏糞が一番安価なので畑にたくさん肥料を撒くときにはおすすめで私もよく使っています。詳しくは品種によって施肥のタイミングが違いますので詳しくは専門の栽培法を参考にしてください。
果実肥大期は窒素が効きすぎないことが栽培のポイントです。窒素使用量は標準量が効果的で少なすぎても多すぎてもよくありません(※6)。
柑橘類(中晩柑)の木を大きくする方法について
柑橘類の木を元気に大きく育てるには、植え付け3年間はすべての蕾を摘み取り花を咲かせ結実しないようにします。新梢を強く芽欠きすると、芽欠きなしと比べると枝が長く、節間も長くなり、わずかに枝も太くなることがわかっています。前年度の秋枝を切り返すと翌年の伸長が長くなる傾向にあります。(2011, ‘させぼ温州’幼木樹における早期樹冠拡大のための新しょう管理技術を公文書を参考にしました。 )4年目からは少々味見用に果実を収穫することもできます。5年目以降は、栽培に失敗しなければ順調に収穫を楽しめます。害虫も見つけ次第掴み取っておきます。
幼木時にハモグリバエなどの害虫が見られる場合は農薬(殺虫剤)を使ったほうがよいと思います。中晩柑は無農薬の状態で木を大きくすることは難しいです。
日当たり
柑橘類は日当たりが命です。明るい日陰程度の環境では落果や害虫発生の原因となります。日光は晩白柚のように大きな果実となる品種ほど必要になります。地面を暖かく保つために白マルチなどを敷くと糖度が1度ほど上昇する可能性があります。
温度管理
日向夏やブンタンやオレンジなどの寒さに弱い品種は冬季に-3度を下回らないように防寒対策を行い管理します。スイートスプリングはミカンと同様-5度まで耐えますので降雪の少ない地域では5年生以上になれば防寒なくても大丈夫です。温度管理と同時に重要と思われるのが防風対策です。ミカンとスイートスプリングだけは割りと北風にも強いですが、囲いのない場所では耐寒性のあるといわれている柚子ですら冬季に乾燥した冷たい風で落葉することがあります。キンカンや八朔も北風に弱いです。せとかやデコポンや日向夏などの品種は幼木のうちは防風対策をしておいたほうがより安全です。
柑橘類もハウス内で栽培することが理想ですが、農業用の被覆資材を用いることでビニールハウスに近い環境を作ることも可能です。露地栽培の場合、11月以降の敷き藁や黒のマルチングも効果的だと思います。
冬季の防寒対策と耐寒性について
ここでは私の考案した防寒対策をご紹介します。柑橘類は品種によっては冬季に防寒対策が必要です。防寒で最も気を付けたいのが蒸れて葉がかびてしまうことです。葉が蒸れないように、光を遮らないようにすることが防寒のコツです。関東以西の-5度までの地域でこの程度の降雪量なら上図のように、防虫ネットだけでも柑橘類を防寒することが可能です。-7度を下回るとこの防寒では落葉してしまいます。さらにビニールを巻く必要があります。
防寒する際には通気性を確保し湿度が高まらないようにします。ビニール被覆は結露や蒸散などで葉の状態が悪くなります。少々日差しが暖かになってくると袋の内部が蒸れやすくなります。まずは湿度が籠らない不織布や防虫ネットやなどの通気性のある素材で巻いたあとに側面にビニールを使い上部に湿気を出す道をを開けつつ被覆するとよいでしょう。防寒する前は農薬を散布して害虫が越冬しないようにします。
これは特別な積雪があった年に柑橘類の様子を収めた筆者の写真です。一時的ならこの程度の雪にも耐えられますが、日向夏などの耐寒性の低い品種は安定した栽培は難しいと実感しています。毎年ここまで積もるようなら二重の防寒対策が必要です。筆者の場合、-7度になる寒気が数回訪れても一応は越冬して生存することができておりますが、落葉もありこの状態で木が大きくなることはなかなかありません。
春に覆いを外す場合も夜間の急な寒さで落葉することがありますので覆いを慎重に外しましょう。柑橘類は冬の乾燥した風や蒸れにも弱いです。防寒ネットを外すタイミングは、十分に暖かくなってからです。間違っても防寒対策を行う前に剪定しないようにしましょう、余計に木が寒くなり栄養供給が切っただけ途絶えますから。防寒を外す目安は春の新梢の発生を確かめてからがよいでしょう。
柑橘類は冬季でも蒸散量が多いので、温度を保ちながら湿気を外に逃がしてやる必要があります。レモンやシークワーサーのような亜熱帯の柑橘類は、全体に不織布などを巻いてから側面にビニールを張った二重の防寒対策がおすすめです。
シークワーサーは気温が足らず栽培を断念しました。栽培していても枯れはしないのですが、栽培適地ではないのですべて落果してしまいます。同様に耐寒性の低いレモンや晩白柚なども温度が不足して落果します。落果を防止するには開花時期~結実初期に加温する必要があります。晩白柚のような品種はビニールハウスかそれに準じる設備が必要だと思います。
水やり
鉢植えの場合、冬季は週1回、春~秋は毎日、夏は1日2度のどの水を与えます。
露地栽培の場合、水やりは基本的に必要ありませんが、7月の梅雨明け後から9月のはじめ頃までの日照りが一週間以上続き土壌が乾燥するような日は畑であっても灌水が必要です。干ばつが続くと酸度が高くなり酸っぱい柑橘ができます(※6)。ポリマルチで土壌を被覆した場合も水やりが必要です。梅雨明け以降から9月上旬までの水やりは週に2回~3回、最低でも週1回の水やりが必要です。
専門的なことを言うと土が乾燥しやすい7月8月の水やりは成長阻害水分点であるpF3.0が果実の品質が優れます。無結果の場合はpF2.3が葉の生育が優れます(※11)。
剪定方法
柑橘類は垂直方向の徒長枝が発生しやすい特徴があります。上図のように基部から垂直に長く伸びた徒長枝は付け根から切り取るか捻枝をして方向転換し結果母枝として利用後剪定で取り除きます。梅雨入り以降に日当たりと風通しがよくなるように剪定し、結果枝の先端は切らないようにします。春に伸びた短果枝(春枝)に翌年花が咲いておいしい実がなりますので1年枝(春枝と夏枝)は切りすぎないように注意します。一か所から複数の結果枝が出ていると害虫の巣になりやすいのでまびきます。弱剪定(間引き剪定)を基本とし、あまり涼しくしすぎないようにします。農薬を自在に使えるなら幹が見えなくなるほど葉を茂らせたほうが果実品質もよくなります。
柑橘類の剪定時期は5月以降の活動期が最適です。活動が低下した冬季に剪定や植え替えをしてしまうと春の萌芽に備えた栄養供給量が不足して芽吹きが遅れたり枝枯れの原因になりやすいと思います。
有農薬栽培では弱剪定が基本ですが、無農薬栽培では害虫の巣になってしまいます。無農薬栽培の場合は害虫が隠れにくい剪定が必要となります。かなり透かす必要がある中晩柑の無農薬栽培は葉数が少なくなってしまうのでおいしい実を作ることはなかなか困難といえます(一応経験済み)。
受粉作業
柑橘類の中には八朔や晩白柚のように受粉が必要な品種があります。受粉作業が必要な柑橘類の見分け方は種子が入っている品種かどうかでわかります。

晩白柚は10号程度の鉢でも栽培が困難で60cm径の鉢が必要です。
ジベレリンによる着果促進
満開時に25ppm、あるいは満開5日後に50ppmのジベレリン処理を行うと麗紅のような着果しづらい品種の着果率が上がります(※7)。
ジベレリンによる花芽過多の予防
柑橘類は花芽抑制による樹勢の維持の目的でジベレリンを使用することができます。ジベレリンの散布時期は11月から1月の間です。ジベレリンはマシン油乳剤に加用することができます。散布部位は木全体または必要な枝で溶液の濃度は、マシン油に加用する場合は2.5ppm、プロヒドロジャスモンに加用する場合は10ppm、ジベレリン単体では25ppmから50ppmの濃度です(平成28年度の内容です)。
ミカンの花芽分化は11月から3月中旬頃にかけて起こります。
南津海や日向夏のように着花が多くなる品種に有効です。
摘蕾摘花の時期と目安
柑橘類は隔年結果しやすいので樹冠上部を中心に摘蕾と摘花、摘果をします。
柑橘類を栽培するうえでまず最も重要なのが摘蕾(摘花)です。品種や年によって柑橘類は非常に多くの花芽をつけて、春の新梢(しんしょう)がまったく発生しない年があります。柑橘類の花芽の過多を予防するためにはジベレリンなどの植物ホルモンが必要です。中間地の場合5月のはじめのゴールデンウィークから第二週目に摘蕾を済ませます。温暖地の場合は蕾の発生が早くなりますので蕾が摘み取れる大きさになったら摘蕾(摘花)します。
幼木時の摘蕾摘花
多くの花蕾(からい)が発生すると成木になるまでの期間が遅れて木が成長することができません。花芽過多により葉の発生が遅れるとどうなるでしょうか?葉の枚数が少ないと何年経過しても苗木の大きさが小さいまま収穫に至らないことに繋がります。幼木時ではすべての花芽を摘み取ります。そこそこ木が大きくなったら不適な位置に発生している花芽を摘蕾します。樹冠上部を全摘花する根拠は、上部は上向き花(果)で日焼け果や果皮の粗い果実になりやすく品質が悪くなるといわれます。
この写真は何等かの理由で花芽(直花)が着生しすぎて新梢が出ていない状態のジャバラの木です。本来ならこの時期には黄緑色の新梢(しんしょう)が出ているはずです。この状態では木が弱ってしまいますので、ほとんどすべての花芽を取り除きます。
成木時の摘蕾摘花
成木時の摘蕾摘花は品種によって異なります。花には直花と有葉花の二種類があり、品種によってどちらに着果しやすいか異なります。各品種の性質に合わせて優先して摘蕾する花を決めます。共通していることは天なり果になりやすい上部の花を摘花します。
花芽分化期
柑橘類の花芽分化期は9月下旬から3月下旬までの間です。この時期に葉や幹、根に貯蔵したデンプン量で次回の開花量が決まります(※9)。花芽を増やすためには標準量の施肥のほか、葉数の確保および着果量の調節、冬季に氷点下の低温に遭遇しづらいよう管理する必要があります。
摘果
柑橘類は結実数が多いほど1個あたりの重さや大きさが軽くなり、結実数が少ないほど1個あたりの重さと大きさが重くなります。
中晩柑の場合、摘果の時期は品種により異なります。スイートスプリングなどの大きな柑橘類は葉80~100枚に1果を目安に摘果します。不知火とポンカンでは6月下旬に摘果を葉120枚に1果の比率で済ませると、収量が減っても果実重さが増え、クエン酸が減少し細根もよく増え樹勢がよいという研究結果があります(※5)。収穫量(kg)は減りますが、果実品質は向上します。これを早期一回摘果といいます。不知火の場合、樹幹上部を摘果すると果実重が増え、果皮が薄くなったという調査結果が出ています(※4)。慣行摘果では粗摘果(7月~8月頃)と仕上げ摘果(8月~9月頃)の二度に分けて行います。このことは柑橘類全般にも言えるのではないかと思います。
粗摘果と仕上げ摘果、樹上選果
柑橘類の従来の栽培法では粗摘果と仕上げ摘果という工程を経ます。中晩柑での粗摘果は6月下旬からはじまります。仕上げ摘果の時期は8月頃とミカンよりも早いです。ただし、ミカンが直花果を残すのに対し、中晩柑では直花果を摘果します(品種により異なります)。
粗摘果
直花果や育成途中の枝の先端の果実を摘果します。小玉果や奇形果、傷果も摘果します。
仕上げ摘果
生育が遅れた小玉果や日焼け果、果梗の太すぎる実を摘果します。
樹上選果
9月から10月にかけて樹上選果を行います。大玉果や傷のあるもの、日焼け果など(売り物にならないもの)を選別して摘果します。家庭用ではここまでする必要はないかもしれません。選果することは木にとって負担軽減につながります。

写真の南津海やスイートスプリングのように必要以上に花芽と果実がついてしまう品種はそのままにしておくと樹勢が弱ります。このようなタイプの柑橘類の場合、幼苗のうちはすべて摘蕾し摘果も行います。早期に果実をつけさせるといつまでたっても購入時の姿から木が成長しません。
摘果のポイントは、大きすぎて果皮が粗すぎるものや、奇形果や日焼け果、SSや3Sサイズのようなあまりに小さな小玉も摘果します。そして樹の内部に近い果実(内果)や下部の実(裾果)の割合を減らします。しっかり摘蕾していれば天なり果が生じることはありません。
品質と樹勢を優先する場合は早期摘果、収穫量を優先する場合は慣行摘果と覚えておきましょう。
摘果と糖度の関係
ある説によると、(ミカンの)旧来の摘果は有葉果や果梗のしっかりした果実を残すというものでした。しかしその方法では果実が大玉で大味になることがわかり、最近では高糖度ミカンの摘果は葉が5枚以上の有葉果や果梗の太い果実、上向きの果実に対し行われるようになりました。「ミカンの作業便利帳」にある栽培方法によれば、すくすくと育った結果枝に実った大玉の果実の糖度は他より1度低いというものでした。農研機構が発表している「カンキツ連年安定生産のための技術マニュアル※2」にも有葉果の糖度は劣ると書かれています。そのマニュアルによると、着果量が多い時の粗摘果は8月~9月中旬頃、仕上げ摘果の時期は9月中旬~10月中旬頃になります。このことはミカンと同等サイズの柑橘にも当てはまるかもしれません。
中晩柑の場合、西南のひかりや南津海のようにミカンと同等の摘果を行える品種と、不知火や八朔のように大玉の品種があり摘蕾摘果の方法が異なります。
いろいろな研究を読むと、大玉の中晩柑の場合、後期摘果に重点を置くミカンとは真逆で、しかもミカンよりも早い時期に摘果の割合を多くしたほうが品質がよくなるのではないかと思います。はっきりしていることは、早期に摘果すると枝へのデンプンの蓄積や根の生育にはよい影響を与えるようです。一言でまとめると早くに摘果したほうが実の肥大が良くなり根量も多くなり樹の負担が軽くなり樹への養分蓄積も行え隔年結果による振れ幅を抑えられる。樹冠上部は紫外線がきつすぎたり養分に偏りがあり品質が悪くなる。暗すぎて葉が少ない内部も肥大しにくい。ミカンの場合は肥大してもらっては売り物として困るので摘果時期が遅い、そういうことでしょう。
八朔(ハッサク)の摘果
八朔の摘果について、あまり資料がなく1978年の研究論文によると、八朔は7月に摘果するとLサイズの割合が多く、8月に摘果するとMサイズが多いという結果になっています(※6)。気温が当時より0.5度以上上昇していることや、不知火などの6月下旬の摘果と果実品質との関係について考えてみると、八朔の摘果もまた6月下旬ごろでよいのではないかと思います。ただし一発摘果であっても9月頃の樹上選果は必要かもしれません。Mサイズが主たる目標の場合、Lサイズが目標の摘果よりも摘果時期は1か月後ろ倒しになります。葉果比は80~100葉に1果です。
中間地の場合、摘果作業が遅れると温暖地よりも早く寒くなるのでむしろ摘果を早めたほうがよいのでは?と思います。
不知火(デコポン)の摘果
先ほどの繰り返しになりますが、不知火(デコポン)の摘果は6月下旬に一発摘果を行うか、従来通り8月に粗摘果(40-50葉に1果)をして9月に仕上げ摘果(100-120葉に1果、文献によっては150葉)をする方法の二通りがあります。
有葉花(果)と直花(果)
果実品質に影響のある有葉花(果)と直花について。有葉花(果)とは、文字通り葉が数枚付いた状態の花(果実)のことです。直花は落葉樹でいえば短果枝のようなもので、葉を伴わない短い茎に生じた花(果実)です。有葉果は大玉化しやすい傾向にあります(※2)。中晩柑の場合、主に有葉花の花蕾(果実)に着果する品種と直花に着果する品種の二通りあります。せとかや麗紅は有葉果に着果します。南津海や宮内いよかんは直花に着果します。
有葉花(果)と直花(果)の摘花(果)
初心者の頃は有葉花と直花という言葉すら知りませんでした。おそらく初心者の皆さんは私と同様に無意識に有葉果を優先して残してこられたのではないでしょうか。柑橘類の花は二種類あり有葉果が直果よりも大玉になることがわかりました。この章では中晩柑の場合、どちらの花を残すか学びます。ちなみにミカンの場合、直花を優先して残します。
不知火では直花(果)を優先して摘花(果)し有葉果を残します。せとかや麗紅といった品種は直花に着果することはほとんどありません(※7)。宮内いよかんの場合、ほとんどが直花で有葉果は僅かであり、直花果も残しつつ摘花(果)します。直花がつきすぎると樹が弱ってしまいます(※9)。
果梗枝
果梗枝(かこうし)とは、前年に果実をつけた枝のことです。果梗枝は発育枝(徒長枝)が発生しやすいという特徴があります。果梗枝に有葉花や直花がつくことはほとんどありません(※2)。果梗枝をどう扱うかがプロの技の見せどころでしょう。
剪定と摘葉(上級編)
この章で述べる剪定はこれまでのべた隔年結果と春枝、夏枝、秋枝、そして果梗枝や摘果枝、有葉花と直花の区別が付いている人に向けた説明です。先の剪定で述べた内容は、剪定時期は5月以降が木の生態に配慮して安全であるという内容でした。大玉果を嫌うミカンの栽培においては隔年結果と大玉果という問題の観点からは間引き剪定において発育枝(徒長枝)や太い果梗を優先して剪定するという方法が考えられます。しかし大玉果を望む中晩柑では剪定方法が違ってきます。有葉花に結実する品種では直花が出やすい弱小枝を剪定対象とし、葉数の多い有葉果を大事にします。逆に直花にしか結実しづらい品種では直花で樹勢が衰えないよう摘蕾摘果をしっかり行います。
ミカンと同等サイズの品種の場合
直花を増やす方法として、摘葉するという方法があります。太くて長い夏梢を9月下旬から10月中旬までに摘葉すると直花が増えるという研究結果があります。しかし摘葉すると直花が増えるかわりに発育枝の発生本数が増えるデメリットがあります。中間地の場合、摘葉すると寒さでそのまま枯れてしまうおそれがあります。摘葉を行った枝は翌年に短い梢を多くつけ、翌々年に花を咲かせ実ります。
裏年に果梗枝の剪定を行います。(※文献No.2より)
病害虫
柑橘類の害虫は小さな虫たちです。カイガラムシとアブラムシは葉を黒く汚し木を弱らせ果実品質を著しく低下させます。ハモグリバエは葉を食害し、葉の生育を阻害します。アゲハチョウの幼虫は葉を食べつくします。カミキリムシはちょうど根元の接ぎ木あたりを食害しますので樹幹内に侵入されないような工夫があったほうが安心です。ハダニには葉水を行い防除します。柑橘類かいよう病は果実にかさぶた状の斑点が生じます。風に揺れたトゲや葉が果実に擦り傷を負わせます。
アゲハチョウの幼虫
ジャバラに害虫のアオムシがいました。観察した結果、1匹あたり、葉20枚くらいは食べるようです。たくさん産卵されていても何匹かは途中でいなくなりました。私は今までこのアオムシを殺したことは無くて。どこかに捨てに行ってます。筆者の場合、捕殺およびトアロー水和剤という有機栽培でも使える農薬で対応しています。
ハモグリバエ(エカキムシ)
ハモグリバエはミカンの新梢に発生し、葉の内部を食害します。食害された葉は元気がなくなります。筆者の場合、トアロー水和剤というBT剤(有機JASの規格内)を使用することで対応しています。
イセリアカイガラムシ
このイセリアカイガラムシという害虫はたいへん厄介で、すべて取り除き冬季にマシン油を散布しても絶滅させることは困難です。こうなってしまうと、かなりの重症で樹勢が衰え苗木が衰弱します。この白いカイガラムシを見かけたら、放置せずに手作業で除去しましょう。マシン油乳剤はお近くのホームセンターで入手可能です。
ゴマダラカミキリムシ
柑橘類に致命傷というか、とどめを刺すのがゴマダラカミキリムシです。この害虫は主幹の根本付近に産卵し、大事な主幹内部を食害し木を枯らせます。発見次第捕殺し、木の周囲を除草します。
ハダニ類
ハダニ類はカンキツの外観を損ねます。有機栽培ではマシン油乳剤のほか、イオウフロアブルもJAS法の範囲内です。
接木と実生(種まき)での増やし方
栽培スペースがある場合は接木をして柑橘類の苗木を増やすことができます。カラタチ台や飛竜台、不要になった柑橘類の苗木、あるいいは種まきをして育てた実生の木を台木とします。カラタチ台の育成は棘が激しく台木の管理に困難を伴いますので趣味の栽培には実生台がおすすめです。
接木の方法は一般的な接木の方法と同じです。割り接ぎ、切り接ぎ、芽接ぎ、腹接ぎなどの手法があります。穂木(ほぎ)を接木小刀で削って台木と形成層を合わせます。カルスが癒合して形成層が繋がります。接木が終わったら接木テープなどに穂木の名前と日付を忘れず書いておきましょう。
種まき
種をまいて木を増やすことを、実生(みしょう)で殖やすと言います。種子をプランターに撒いておくだけで発芽して木が大きくなります。台木を得たいときにおすすめの方法です。たいていの場合は棘が多い木になりますが、もしかしたら刺のない木が誕生するかもしれません。実生はオリジナルの品種ですから育種する楽しみがあります。どの品種か、何の品種と交配したのか名前を日付を忘れず書いておきましょう。
愛好家やプロの間ではニューメデールという接木テープが成功率が高くなるので人気です。
袋かけと収穫の方法
柑橘類の収穫はこの写真のように葉2枚程度を付けて、剪定鋏で丁寧に枝を切ります。無理に果実を引っ張ると枝が傷みます。柑橘類は収穫鋏より、剪定鋏で収穫したほうが何かと便利です。

品種や地域により中晩柑の収穫時期は異なります。必要な場合は袋かけを行い寒さから果実を守ります。ここで注意したいのが、オレンジ色や赤色の袋はネットを張らない栽培では使わないことです。ピンクもよくないかもしれません。ピンク色には紫外線を10%程度通過させる機能があり、白ほどではありませんが、紫外線を少々通過させる機能があります。カラスのような野鳥はオレンジ色を見ると食べ物ではないかと思う傾向があり私もよくオレンジ色の袋がやられます。最良なのが、緑色の果実袋です。緑色の袋は紫外線を通しにくいほか、野鳥から果実を守るステルス機能がついてます!(^^)!柑橘類で袋掛けが必要な品種は冬を越して収穫期を迎えるバレンシアやデリケートなせとかなど、寒さに弱い晩柑類です。
保存方法
柑橘類は冷暗所で保存します。適度に湿度があり、涼しくて暗い場所で保管します。湿度が低すぎると皮が乾燥して硬くなり、果実もしなびてきます。私は一応、洗浄してから保存します。長期保存する場合は湿度80%の状態で5度程度の低温で保管します(「ミカンの作業便利帳」より)。
ページ冒頭の中晩柑の食べ頃の表について
中晩柑の食べ頃の目安を表にしました。食べ頃と収穫時期は異なりますのでご注意ください。
柑橘類のレシピいろいろ
通常は生食する柑橘類も腕を振るえばおいしい料理が作れます。私は柚子の皮とスピリタスで柚子チェッロという飲み物を作りましたがこれがまたおいしい!あの酸っぱい柚子とは思えないくらいにおいしく香り高いのです。すぐになくなりそうなので我慢しながら少しずつ飲んでます。

おすすめ書籍のご案内
柑橘類の育て方について書かれた本の紹介です。基本的なことはNHK趣味の園芸「柑橘類」が一番おすすめです。少々難しいことは「高糖度・連産のミカンつくり」がおすすめです。
おまけ、柑橘類のおすすめの品種は?
柑橘類を一通り学びつくした私のおすすめ品種は、中晩柑でおすすめの品種はやはり【デコポン】や【スイートスプリング(みかんと同じ味と思ってましたが僅かにオレンジのような風味がします)】、オレンジの味がする【せとか】、長期保存のできる【森田ネーブル】あたりでしょう。【三方柑】など食べごたえのない品種は満足感も薄いのではないかと思います。【ブラッドオレンジ】や【スイーティー】もおすすめです。
![]() 柑橘類 苗木 ブラッドオレンジ タロッコ 2年生 接ぎ木 苗 果樹苗木 果樹苗 ...アントシアニン豊富です。 |

栽培記録
このページの著者である私が実際にさまざまな柑橘類を栽培してきた日々をご紹介しています。日々の栽培経験は独自の観察結果を生み出し新たな発見は本ページの栽培法の裏付けとなっています。他のサイトから盗み出した内容で偽物の栽培法を紹介するページや自称専門家が多い中、筆者は実際に栽培してわかったことだけをお伝えしています。どうぞ苦労して柑橘を育ててきた日記をお読みになり、本内容が本物(リアル)であることを知って軽はずみな気まぐれで作られた書物でないことをご理解いただければ幸いです。
- スイートスプリングの栽培記録 No.2 2019年~
- スイートスプリングの栽培記録 No.1 ~2018年 : 栽培容易で木は元気すが隔年結果しなかなか実をつけません。
- 柚子の栽培記録 : 中間地でも落葉し3年に1度の結実です。
- 日向夏の栽培記録 : 中間地のため困難が多いです。無理だと感じます。
- ジャバラの栽培記録: 中間地で乱雑に扱っても栽培容易です。
- スダチの栽培記録 : 順調に育っています。
- デコポンの栽培記録: 中間地のため困難が多いです。不知火はいい感じで、早生デコポンは無理だと感じます。
- ネーブルオレンジの栽培記録:森田ネーブルは何とか育ってます。
- 八朔の栽培記録 : 中間地のため、なかなか成長しません。
- 晩白柚の栽培記録(終了) : 栽培適地ではないので困難が多く枯れてしまいました。
- 南津海の栽培記録(終了): 枯死を後悔するほど魅力的な品種でした。耐寒性があるというレポートが出ています。
- キンカンの栽培記録(終了)
- シークワーサーの栽培記録(終了) : 栽培適地ではないので結実せずあきらめました。
- ポンカンの栽培記録(終了)
参考・引用文献
- No.1ミカンの作業便利帳(書籍)
- No.2農研機構カンキツ連年安定生産のための技術マニュアル www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/rennen-manual.pdf
- No.3温州ミカンの隔年結果性と結果母枝の花芽分化特性との関係 http://farc.pref.fukuoka.jp/farc/seika/h13/h13a-8-2.pdf
- No.4 樹冠上部摘果が‘不知火’の肥大生長と果実品質に 及ぼす影響http://web.agr.ehime-u.ac.jp/~farm/dl/report/1202.pdf
- No.5 「不知火」の品質向上、樹勢椎持及び安定生産に対する早期一回摘果の効果https://www.naro.affrc.go.jp/org/warc/research_results/skk_seika/h09/skk97062.htm
- No.6 ハッサクの果実の肥大と果汁の糖酸含有量の変動に及ぼす摘果時期の影響(1978年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/47/2/47_2_158/_pdf
- No.7 中晩生カンキツ‘不知火’の樹体生育と果実品質ならびに細根量に及ぼす土壌改良資材と窒素施肥量の影響https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/5/3/5_3_247/_pdf/-char/ja
- No.8 中晩生カンキツ「麗紅」の着花・着果特性と植物生長調節剤を利用した着果促進(2015年)https://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/theme/research_report/PDF/S6-10.pdf
- No.9 柑橘の花芽分化期に關する試験(1943年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/13/1/13_1_24/_pdf/-char/ja
- No.10 温州ミカンの着果負担に関する研究 第5報(1978年)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010164189.pdf
- No.11 温州ミカンの果実の品質および開花に及ぼす夏季の水分と窒素施用の影響(1989年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/40/3/40_3_225/_pdf/-char/en
- NO.12 2016年の低温による被害から見たカンキツの耐凍性の品種間差異: http://farc.pref.fukuoka.jp/farc/kenpo/nourinkenpo-4/04-20.pdf
- No.X おうちで鉢植え果樹栽培(筆者のブログ)
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更新履歴
- 2018年11月18日: 品種ごとの耐寒性分類を掲載しました。
- 2018年10月15日: 筆者の柑橘に現れた害虫の実物写真を掲載しました。
- 2018年5月13日: バーク堆肥の使用量についてわかったことを記述しました。
- 2018年5月11日:摘果を中心に学んだことを加筆しました。
- 2018年5月9日:植え付けと植え替えについて独自の見解を述べ接木について説明しました。
- 2018年5月8日:栽培カレンダーをより実用的に改めました。摘蕾についてより詳細に述べました。
- 2017年11月27日:読みやすいように文章を手直し品種を再評価しました。
- 2017年2月26日:冬季の脳卒中のリスクを考慮した栽培カレンダーに改定しました。
- 2016年12月27日:ミカンのページを分離しました。
- 2016年12月18日:プライバシーポリシーと著作権を明記しました。
- 2016年12月14日:ページURLを移動しました。SSL完全対応しました。
- 2016年12月2日:ミカンについても詳しく説明することにしました。ミカンについて、加筆し写真を入れました。
あとがき
趣味栽培といっても、なかなか実りがない原因を科学的に追究していったらやたら詳しくなってしまいました。おそらくこのページは日本一詳しい中晩柑の育て方になっています。みなさんにとってはたかが1ページかもしれませんが、私はこのページを作るために数日どころか数十日は時間を割いています。それでもまだまだ調査しきれていません。まだ完成を見ることはありませんが、栽培指導書を作るのって本当にたいへんなんですね。